四段ロケット方式、ゼミレジュメ執筆法

                   (桜井研究所通信980520)
                   桜井芳生(著作権保持)
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                   (現代メディア文化論演習)

980520私はいままで、三段ロケット方式レジュメ執筆法というのをおすすめしていた。これはこれでかなりよかったとおもっている。が、私の教育方針をご存じない方には、「学生の読書ノートを読まされた」と感じてしまう読者も多いようだ。で、読書ノートっぽくないレジュメとして「四段ロケット」方式、というのを考えたので、ぜひ、二年生はこの方式でやってみてください。
 

すなわち、【問題】【先行研究】【考察】【論文構造設計表】の四段方式である。

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1【問題】
 

(問題意識の提示をする。)

例)現在の私たちにとって、テレビの存在は空気のようにあたりまえのものなってきている。しかし、もしかしたら、テレビは何らかの害をもっているものなのではないだろうか。このような問題意識から、検討するに値する先行研究を紹介し、それをふまえて私自身の見解を展開したみたい。(など)

2【先行研究】
 

(うえの問題意識からして無視できないような現在の最先端といえる先行研究を1〜2紹介する。「紹介」はあまり「自分のコトバ」にしてしまうと「その解釈は本当に正しいのか」という解釈の信頼性問題が生じてしまうので、「ページ数付きの引用」を中心にするとよい。)

例)上述の問題意識にとって、今日無視しがたい研究があらわれた。金原克範の『子のつく名前の女の子は頭がいい』である。………(以下、引用中心でこの本の紹介)

3【考察】
 

(うえの2の先行研究の紹介をふまえて、「自分」の考えを展開表明する。このようなパタンにおいては、自分の見解はおもに3とおりになると思う。すなわち「1,先行研究へ全面賛成」「2先行研究への反対」「3、先行研究への修正意見・付加意見」。)

(1の先行研究への全面賛成の場合は、「先行研究が論じていなかったような仮想反駁に、自分の手で反駁をして、先行研究の見解を、擁護する」というパタンにしよう。)

例)以上のような金原の意見に私は基本的に賛成だ。しかし、このような金原の見解には、金原自身は論じていなかったような有力な反論があり得る。それは、彼が見いだした「子のつく名前の女の子は頭がいい」という現象はたんなる「疑似相関(ウソの見かけだけの相関関係)」だ、という反論である。ここでは、私は、金原の意見を擁護したいので、この「金原の発見は疑似相関にすぎない」という見解を反駁してみたい。……(など。)

(2の先行研究への反対は、先行研究に反駁をおこなうことが考察のおもな作業になる。)

例)このように金原は、大略テレビの普及によって、日本人のコミュニケーション能力が質的に低下してきたと主張する。しかし私は、この見解に反対である。金原が問題にしたような現象はテレビの普及とは別の原因によると私は主張したい。すなわち、じつは、自動車の普及こそが真の原因である、と。……・(など。)

(3の先行研究への修正意見・付加意見は、先行研究をふまえるけれどもさらにそこに自分の意見をつけくわえる、というパタンである。)

例)このように金原はテレビの危険性について主張する。この主張は基本的にわたしも賛成だ。しかし、金原は現実への処方箋についてはあまり明確にのべていない。そこでわたしは、コインテレビ方式を提案したい。安いホテルなどにいくとテレビの横にコインを入れるボックスがついていて100円で1時間みられる方式である。これをすべてのテレビにつける、という提案である。……(など。)

4【(ナンバーつき)論文構造設計表】
 

(この3【考察】は、必ず、論文構造設計表によるようにしよう。というか、むしろ、この論文構造設計表を「ああでもない、こうでもない」と、書いては棄て書いては棄て、しながら自分の「主要命題」を考え、論文構造設計表を書き、そのあとで、【考察】を書き下すようにしよう。論文構造設計表については駿台文庫の『論文ってどんなもんだい』(必読!!)を参考にしてほしいが、ぜひ「桜井方式の、ナンバーつき」の設計表にしてほしい(以下参照)。)

例)【主要問題】金原のテレビ原因説は正しいか。
 
【主要回答=結論=イイタイコト=主要命題】正しいとはいえない。1

【1への反問】なぜ、ただしいといえないか。

【返答】自動車普及原因説の方がより有力だからである。2

【2への反問】自動車普及原因説とはなにか。

【返答】自動車の普及が、「子のつく名前の女の子は頭がいい」という現象の原因であるという説である。3

【3への反問】その説を支持する事実はあるのか。

【返答】ある。自動車の普及率が高い島では、「子のつく名前の女の子は頭がいい」という現象がみられるが、自動車の普及率の低い島では、この現象はみられないのである。4…・・

(以上のように、すべての命題(返答)に機械的にナンバーをふって、どの命題に対する【反問】かを明記するのが、「桜井方式」の「ナンバーつき論文構造設計表」である。)

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(注意点をいくつか)

【問題よりも、ネタ本を重視すること】

よく「自分の問題意識を主体的にもて」などといわれる。これはこれで反論するつもりはないが、現代日本に生きている人の大部分は、とくになんの問題意識も持たずに生きているように思う。また、大学二年段階で、おもしろい問題意識を持っても、分析能力がそれに追いつかない場合が多い。

で、問題意識よりも、まずは、「おもしろそうなネタ本」を探すことを「はじめ」にするといいと思う。おもしろい本が見つかれば、それに触発されておもしろい問題意識もしょうじるかもしれない。

大学2〜3年レベルでは、ゼミ発表の「成否」は、おもしろい本がみつるかるかどうかで、ほとんどきまってしまう、とおもう。

【自分の意見ができる前から、レジュメを書き始めて、一週間前までに、「引用部分」を終えておくこと】

ゼミ発表が失敗する最大の原因は、準備が遅れることである。なぜそうなるかといえば、「アイデアができてから書き始めよう」とするからだ。これが、最大の誤りである。

逆に【最大の成功のコツは、アイデアがなくても書き始める】ことである。

まずは、【先行研究】の引用を書いてしまう。(発表の一週間前まで)。

そしてそれが終わってから、安心して、【論文構造設計表】をああでもない・こうでもないと何枚も書いてみればいいわけだ。

で、よい論文構造設計表ができたら、それを【考察】に書き下ろす。

文頭の【問題】は、手順としてはじつは【最後に!】書けばよいのである。
 

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