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(紹介者)桜井芳生sakurai.yoshio@nifty.ne.jp
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現代の若者にとって、裏原宿とは何か
鹿児島大学法文学部人文学科メディアと現代文化コース。2年。
【要約】
リミックス・単発組み上げ文化を持つポスト新人類世代にとって、過度に細分化された社会の中で、ライフスタイルを作り出すのは、難しい。裏原宿のショップ群は、「服を着る」というシンプルな方法で、社会のメインストリームから一歩ひいた、カッコイイ、ライフスタイルの作り方を、わかりやすく提示している。ポスト新人類世代は、それを消費によって取り入れようとしているのだ。
【ポスト新人類世代にとって、裏原宿とは何なのだろうか?】[問題提起]
着古したTシャツが¥19800。スタジアムジャンパーが¥150000。これは、都内にある裏原宿系ブランドの古着を扱う某ショップで実際つけられていた値段だ。この不況の中、これが飛ぶようにうれている。…… 開店前ともなると平日でも人が長い列をなす。ピーク時には約200m以上という信じられないような行列を作ったというから驚きである。
商品が少なく、単価も高いにもかかわらず、なぜ、このような現象が起きているのだろうか?
【ポスト新人類文化はリミックス・単発組み上げ文化である】[先行研究1]
ここで言う“ポスト新人類世代”というのは、“新人類世代”(80年代の若者)の、次に見られる世代のことで、大きく言えば、90年代の若者を指している。
内容(=イデオロギー)でもなく、スタイルでもない、つまり、マーケットによって記号的消費と対人関係の結合した雛形を与えられ、意味付けしてもらわなくても、コミュニケーションの形式を自己学習し、自己増殖させ始めた文化。 (小幡{1999:9})
彼らにはすでに、生まれたときから80年代の若者が作った、消費と結びついたコミュニケーションの形=雛形を与えられていた。彼らはそれを自己学習し、またあるものは新しく作り出す。コミュニケーションにおけるその方法が、他の分野においても、
各自が単発に出会ったものをくみ上げて自分の世界を作って行くような形式が一般化
(小幡{1999:9})
していくことを生み出すのである。それをファッションの流行に置き換えると、
90年代のストリートファッションの特徴は、過去のアイテムを取り入れて新しいスタイルを形成する「リミックススタイル」である。 (流行観測{1998.3:16})
といえる。
【裏原宿系はモノカジ系である】[先行研究2]
ポスト新人類世代のファッションについては、表1のような分類ができる。
T「ネオボディコン系」
<限りなく憧れの「他人になりたい」から、そのツールとしての服を着る> |
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@ギャル・セクシー系〜起源は93年に誕生したコギャル。その後シャネラーの流れを受け継ぎ、95年のガールNYカジュアルの登場で96年前半まではアンナスタイルやアムラーといったデルカジに融合されていたが、後半になり、『Cawaii!』などが創刊され一気にワールドが誕生した。また、モードでの“ロマンティック”というキーワードが変化し、“セクシー”スタイルの子が増殖した。別名「09(マルキュー)系」という。 | ||||
憧れのブランド | ジル・スチュアート、グッチ、プラダ。 | |||
好きなブランド |
新宿アルタ |
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よく読む雑誌 | 『ViVi』『Cawaii!』『JJ』『EGG』など | |||
キーワード | セクシー、かわいい、MAX、キティー、マイメロディー | |||
AV男・イタカジ〜94年のボーダー系にその起源を発し、NYカジュアル期には、チノパンをズリ下げて履いていたという過去を持つ。先に大人っぽくなったギャルの影響で、黒のVネックでモード系のおとこの子のマス化を導いた。しかし、よりワイルドな「大人の男になりたい」がために、かつてパンツを下げすぎたように、Vネックも開けすぎ、ネオヤンキー的なスタイルになってしまった子も急増した。 | ||||
憧れのブランド | グッチ、アルマーニ、プラダ、ポールスミス | |||
好きなブランド
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アバハウス、コムサデモード、メンズメルローズ。 |
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よく読む雑誌 | 『 BOYS RUSH!』『FINEBOYS』 | |||
好きなタレント |
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キーワード |
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U「ファッションマニア系」
< 限りなく「自分になりたい」から、モノやデザインで個性を表現する。 > |
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BネオDC系〜93〜94年のカマ男やリサカジ(リサイクルカジュアル)、インディーズ系デザイナーズの流れを受け継ぐ層。97年にモード系がマス化したことで、より“自分を表現しよう”としてアヴァンギャルドなデザインや色、素材などのデザイナーズ系の服を好むようになった。モノやブランドのストーリー(ウンチク)に影響を受けやすい男の子が牽引したが、男女ともにメンタル面はジェンダーレス。 | ||||
憧れのブランド
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20471120、丸山敬太、荒川●一郎をはじめとする
ネオDCブランド。さらにラッドミュージシャンやスリル&サスペン スといったインディーズブランド。 |
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よく読む雑誌 | 『 CUTIE』『Smart』『Fruits』『流行通信』 | |||
キーワード | ジェンダーレス。“人と違うモノ”が好き=個性。限りなく“自
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Cモノカジ系〜95年に誕生した小山田スタイル(DJスタイル)の流れを受け、ファッションだけでなく、音楽やゲームなどのサブカル全般に興味がある層。かつては古着を古着として好んで着ていたが、モノのストーリー(ウンチク)に“個性の表現”を求めたことで、ヴィンテージものや別注モノといった“レアもの”にカッコ良さを求めるようになり、ファッションもマニアック志向になった。“裏原宿系”、“フジワラ系”ともいう。 | ||||
憧れのブランド
=好きなブランド |
アンダーカバー、荒川眞一郎、ジェネラルリサーチ、丸山敬太など多数。 |
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よく読む雑誌 | 『Smart』『メンズノンノ』『FINEBOYS』 | |||
キーワード | 限定モノ、別注、プレミアム、カリスマ、レアなど、徹底的なアイテム |
つまり、憧れの他人になる(見える)ための道具として、服を着る人(ネオボディコン系)ではなく、モノ(服)自体で個性を表現したい、自分になりたい人(ファッションマニア系)の中で、サブカルチャーに興味が有り、レア物を重視する集団が、裏原宿系といえる。
【裏原宿ショップ群の4つの特徴】[先行研究3]
発祥は、今より約5年前。当時よりアンダーグラウンド的に支持を得ていた 若いクリエーター、JONIOと2GOが共同で、原宿の明治通りと表参道に挟まれた一角に店を出したことから始まったとされている。その後、彼らの友人や、後輩らが近所に続々と出店、共通の価値観を持つ集団が生まれた。 (SPA!{1999.4.14:20})
ラフォーレ原宿から明治通りを越した先にある半径1キロくらいのストリート・ファッション系人気ブランドのショップが軒を並べる地区。 (alt. culture Japan:裏原宿)
その特徴としては、主に4つが挙げられる。
小ロット、限定生産は…付加価値を与え、「人とは違うカッコ良さ」を求める小年少女を虜にしていく… (SPA!{1999.4.14:20})
のである。
この地域に特徴的なのは各ショップのオーナー・店員同士がみな「友達」というところ だろう。彼らにとって隣に位置するショップは競争相手ではなく、ファッションを共通コードにしたある種のコミューンをともに築いている「同志」なのである。 (alt.culture Japan URL:裏原宿)
元々、彼らは、商売敵である前に、仲間である。そのコミューンとは、ショップのディレクターのみに限られず、音楽、現代アート(クリエイター)など、幅広い。
3,店員がカリスマ化している。
(SPA!{1999.4.14:22})
「彼らの大半はスタイリスト、デザイナーなどで、自分自身がオシャレで芸 能人とも付き合いがあったりする。藤原ヒロシに代表されるように、ロンドンやニューヨークなどの海外の流行を取り入れるのが上手で、若者が憧れを持つ要素をいろいろ持っている」
(SPA!{1999.4.14:22})
じつは、ショップにおいて消費者とひざを交えながらも、消費者とはかけ離れた、憧れに足る世界を持っているのだ。
そして、ファッション誌に彼ら自身が出ることによってさらにカリスマ性は高まっていく。既に影響力という点ではヘタな芸能人を凌いでしまっているのだ。 (SPA!{1999.4.14:22})
2年ほど前に起こったポルシェやBMWなどの高級外車メーカー製の自転車ブー ム。元をたどれば、「裏原宿系」の大御所、藤原ヒロシが某誌でベンツの自転車に目をつけ、紹介した事に端を発するといわれている。…原宿は、高級なチャリで溢れかえるよう になった。 (SPA!{1999.4.14:20})
A格闘技
シューティングや、パンクラスなどマイナーな格闘技人気が世間で高まって いる。実はそこにも彼らの影響がある。藤原ヒロシが注目していただけでなく 、ある裏原宿系ショップは選手をサポートするということで、自家製ブランド服を提供…
(SPA!{1999.4.14:20})
Bフィギュア
『猿の惑星』のモチーフで有名な裏原宿の人気ブランド「A BATHING APE」のデザイナー、2GOだ。学生時代からアメリカン・トイの魅力にはまっていた彼は、その昔、雑誌『宝島』での連載「ラスト・オージー2」で、定期的にアメ・トイを紹介。…ヒカ ルのショップ、「バウンティーハンター」も同じことがいえる。 (SPA!{1999.4.14:20})
C音楽
【ポスト新人類世代は、裏原宿に“ライフスタイル”のモデルを見出している】[結論]
ポスト新人類世代のなかで、「モノカジ系」と呼ばれる若者が、裏原宿に見出しているものは、比較的明確で、理想的なライフスタイルのモデルではないだろうか?
では、なぜ、彼らはライフスタイルのモデルを求めるのだろうか?
先行研究1にあるように、ポスト新人類世代は、リミックス・単発組み上げ文化が基本である。しかし、あまりにも細分化が進みすぎたため、ライフスタイルにおいて、そうやって、(あるいは元から自分で作り出して)他との違いを明確にするのはなかなか難しいことである。
「裏原宿」のコミューンが、その成功例として彼らに映っているのではないだろうか?
【服を着る、というシンプルさと、メインストリームからひいた姿勢がかっこいい】
裏原宿のショップ群の何が、彼らにとって、明確で、理想的なのだろうか?
ポスト新人類世代は、先行研究1で述べたように、生まれた時からモノの消費によって自己を他と差異化していく方法を与えられ、学んでいる。特に、モノカジ系は、その傾向が強い。逆に言うと、それしか差異化の方法を知らないのだ。
だから、まずは、「服を着る」という、消費による差異化の方法は、彼らにとって、明確だったと言える。
また、裏原宿のショップのスタンスは、アンチ大量消費・大企業であると言える。
先行研究3で見たように、ショップの店員たちは、ビジネス、というより、「好きなことを好きなように、好きな仲間とやっている」的な、趣味に近いスタンスをとっている。これは、ひところに比べて輝きを失った、メインストリームの大量消費・大企業主義社会に対抗する立場であると言える。しかし、60年代のイデオロギー世代とは違い、一歩ひいた、「他人はあまり関係ない」的なクールな姿勢を保っている。
つまり、大量消費社会に生まれ、その限界を見てきたポスト新人類世代にとって、裏原宿のショップのスタイルは、カッコよく、理想的だったのである。
さらに、限定生産という価値は、モノカジ系にとっては、欠かすことのできないものなのである。
【オリジナルなライフスタイル作る方法を、真似ることで取り入れたい】
ポスト新人類世代が目指しているのは、自分達で作りだした、他とは明らかに違う、ライフスタイルである。だとすれば、真似で、それが得られるというのは、おかしい。
先述のように、ポスト新人類世代は、モノの消費によってしか、ライフスタイルを選択できない。だから、彼らは、裏原宿における消費によって、裏原宿をライフスタイルを作るための方法論として自己の中に内在化したいのではないだろうか?
その例として、裏原宿の路上には、様々なデザイナー集団、クリエイター集団、パフォーマンス集団が現れている。その中のひとりは、こう言っている。
(SHIBUYA TRIBE{1999.7:1})
彼らは、裏原宿という場所に、「ライフスタイルは自分で作り出す」、というライフスタイルのモデルを見出しているのである。
【論文構造設計表】
<主要問題>ポスト新人類世代にとって、裏原宿ショップ群とは、何なのか?
<主要回答>ライフスタイル選択のための、比較的明確なモデルのひとつである。
〜@
<@に対する反問>
なぜ、ポスト新人類世代はライフスタイルのモデルを求めるのか?
<回答>
リミックス・単発組み上げ文化によって、彼らは、自分たち独自のライフスタイルを求めようとしている。しかし、細分化しすぎた世界の中でそれは難しいことである。裏原宿文化は、彼らにとって、明確で理想的だった。〜A
<Aに対する反問(1)>
どういう風に明確なのか?
<回答>
消費文化に生まれたポスト新人類世代は、生まれた時から、モノの消費による
他人との差異化、個性の表現の仕方をまなんでいるから。特に、モノカジ系は、モノに対するこだわりが強いため、モノ自体に価値を置く裏原宿文化は、明確なモデルになった。
<Aに対する反問(2)>
理想的なライフスタイルとは、どういうものか?
<回答>
自分達の好きなことを、ビジネスより趣味に近い感覚で、自分達の手で、好きな仲間と、好きなようににやっていく。輝きを失ったメインストリームから一歩ひいた、クールなスタンスをもっている。つまり、消費社会に生まれ、その限界を見てきたポスト新人類世代にとって、最もカッコよい、理想的なスタイルである。〜B
<Bに対する反問>
しかし、他人のライフスタイルを取り入れては、自分で作るライフスタイルにはならないのではないか?
<回答>
そうであるが、消費によって他人との差異化を強調する世代にとって、モノを選ぶ(ここでは服を身に付ける、他の分野においては、その文化を取り入れる)ことしか、自己のライフスタイルを選択し、他人との違いを引き立てることができない。だから、そうやって、裏原宿という、ライフスタイルを自分で作り出す、方法論を内在化したいのである。
【参考文献】
・『SPA!』1999 4/14号 扶桑社
・小幡純之介 『現代の若者文化』 1999 修士論文要約
・『流行観測 アクロス』 1998 3月号 Parco
・Alt.Culture Japan URL
http://www.mediaworks.co.jp/alt/000/altculture.html
・週刊ファッション情報URL
・『SHIBUYA
TRIBE』
1999 7月号
三栄書房
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