971021金原克範「子のつく名前の女の子は頭がいい」1995洋泉社、勉強ノート。(桜井研究所通信971021)

               桜井芳生  
 
 

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【金原「子のつく名前の女の子は頭がいい」は日本社会学最高の成果の一つである】

おくればせで、金原克範氏の「子のつく名前の女の子は頭がいい」を通読した。

感動した。

金原氏とは前から言語研で交流があった。で、彼の議論は、だいたい知っている気がしていた。が、著作を読んでみて評価をあたらにした。

「子のつく…」は、「事実発見」の点でも、その事実を「説明するモデルの、必要十分性」の点でも、説明モデルによって出力される「現実への提言の、重要性」の点でも、現代社会学の最高の水準をしめしているのではないか。

このような衝撃的な仕事が社会学の周縁部分(金原氏は、理学修士である)で、なされたことを、われわれ社会学者は、「深刻に反省」しなければならないのではないか。われわれ社会学者がおこなっているコミュニケーション自体「メディア一世のコミュニケーション(後の祭り情報)」ないし「メディア二世のコミュニケーション(現実と乖離した、態度変更につながらない情報)」であったと反省すべきだろう。

というわけで、私としては久しぶりに勉強ノートを書いてしまった。関心のない方は、とばしてください。

+++++++++++++++++++++ (金原の主要提議)(数字は、ページ数)

「現代の子供たちでは、情報に対する価値観が、出力価値重視から入力価値重視へと変化している。この、情報価値観の変化こそが、現代社会でコミュニケーションが成立しないことの直接の原因と考えられる。」175

「子供たちの情報的価値観は、TVや雑誌などのマスメディアの普及により発生した。しかし、情報的価値観の変化は、メディアの受信者…の次の世代にはじめて現れる」176

「メディア二世は、…・・会話の後、行動を変えることができない。180」

「正常な個体間コミュニケーションは、送信者が受信者からのPL(パッシヴ・ランゲージ)(「知識がない」ということ)を知覚することにより、開始されていた。…・・ところで、メディアは生物ではない。メディアには受信者からのPLを認識する知覚系が存在していない162.」

「メディア一世は、受信者に対して情報の事後送出を中心としたコミュニケーションをおこなう163。…・・メディア二世は、成長する過程で、メディア一世から主として事後送出のコミュニケーションがおこなわれてきた。…結果、受信者は、コミュニケーションには意味がないことを学習し続けていく。…結果として、受信者は、コミュニケーション後にも、行動を変化させないケースC型の受信者へと変貌していく。169」

「メディアの表面に危険性をきちんと表示しておくことが必要である。190」

「メディアを遠ざけることよりも重要なのは、メディア以外の情報の流れを確保していくことである191.」

「メディア二世に必要なのは、心理的な安定より、具体的な情報なのだ。社会において実際に必要とされる知識なのだ。メディアという回線をとおさない、フェイストゥフェイスの情報だけが、彼らに力をあたえてくれるだろう192.…・・パッケージされた情報よりも、生のままの情報を集めていこう。…・フットワークの軽い人々は、こうしたときにすぐに連絡をとってしまう。…・・こうしたネットワークが広がることで、人間の生活は豊かにものになっていく。193」

++++++++++++++++(以下桜井によるコメント)

971021つまり、金原の想定するメカニズムは「二段構え」である。第一は「メディアとメディア一世間の関係」である。ここでは、メディアは、PLを受信することなしにメディア一世に情報を送ってしまう。このことによって、メディア一世自身がPLの受信能力を失ってしまう。第二は、「メディア一世と、メディア二世との関係」である。このようにPL受信能力の低下したメディア一世は、メディア二世に「情報の事後送出(後の祭り情報)」をしてしまう。この結果メディア二世は、「情報には意味がない」と言うことを学習してしまう。よって、このメディア二世は、会話の後に行動を変えることができにくいのだ。

971021この図式と、当初の「子のつく名前の女の子は頭がいい」という知見の関係。上述の意味でのメディア一世である親こそが自分の子に「子のつかない名前」をつける確率が高(い時期があ)った。よって、子のつかない名前の女の子が上述の意味で、「メディア二世」である確率がたかい。そしてこのような子は、会話の後に行動を変えることができにくいのである。

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