桜井芳生
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【第一命題(事実仮説)】家庭内売春が高頻度化しつつある。
【第二命題(説明仮説その1)】家庭内売春は、女の側の「結婚の非売春化」に よる。
【第三命題(説明仮説その2)】家庭内売春は、男の側の、「セックスの非征服 化」による。
970112【「家庭内売春」化仮説】大島清の本(「離陸する妻たち」だったかな) を立ち読みしていたら、セックスするたびに夫が妻にかねを支払う事例の話がで てきて、びっくりした。じつは、同様な話を、まったく別のしかも「二つ」のソ ースから聞き知っていたからである。
とすると、この現象がまったくの偶然であるとは考えにくいだろう。
まず第一レベルとして、「事実問題」として、セックスのたびに夫が妻に金品を 支払うという「家庭内売春」が、高頻度化しつつある、という「家庭内売春」化 の仮説を提起することができるだろう。(本稿は、鹿大のO氏の一連の議論に刺 激を受けている。感謝します)。
思い当たるフシがあったらぜひお知らせください。
で、この仮説が事実だとして、なぜそのような現象が生じているか、という「説 明問題」が次に提起されるだろう。
970112この説明についても例によってさまざまな諸要因がからんでいるだろう。 思いつくままに書いてみると、大略、以下のような「女側の事情」と「男側の事 情」の、二大(?)原因が指摘できそうだ。
【第一の説明案】
970112第一の女側の事情は、いわば「結婚の非売春化」である。
岸田秀によると、性的サービスを代償に女が男に養ってもらういわば「売春」の 一つが婚姻である。しかし現代のおいては、女の一部はある程度「経済力」がつ き男に養ってもらう必要度が減少した。しかし、社会通念は遅くにしか変化しな いので、そのような女も結婚を社会的に迫られる。で、結婚する。しかし、その 結婚においては、「男の養ってもらう必要度」は減少している。それに対応し て、果たすべき性的サービスも低下する。このことを所与とした上で、彼女に性 的サービスさせるには、「更なる追加的支払い」が必要であろう。これが「家庭 内売春」として現象する。
もしこのような説明案がただしいとすると、「夫に養ってもらう必要が小さい (つまりは経済力のある)妻」ほど、家庭内売春の頻度がたかいということが 「予想」できる(いうまでもなく「常識」からは、「逆」の予想が出力するだろ う)。これは、原理的には簡単に「実証的テスト」にかけられる(じっさいはむ ずかしいが)。ちなみに、私の知っているふたつの事例はともに、この「予想」 通りである。
【第二の説明案】
970112第二の男の側の事情は、いわば「セックスの非征服化」である。
再び、岸田によると、男は「不能(勃起しない)不安」を抱えており、これを女 を征服することで外在化し、ごまかす。しかし、現代においては、女性の地位向 上などの結果、セックスにおける「女の征服」は成立しがたくなっている。ここ において、夫婦間のセックスを再び疑似的に「征服」化するための仕掛けが、 「家庭内売春」ではないか。過日、「ゴーマニズムvs市民団体」のテレビをみて いたら、市民団体の女性が「売春によるセックスは、強制だ」という主旨の発言 をしていた。近代市場社会の常識からすると、売買の結果による行為は強制では ないだろう。しかし、どういうわけか、売春は、強制っぽく感じられてしまう。 この点をいわば「うまく利用した」のが、くだんの「家庭内売春」かもしれな い。
【二つの機能要件と、両立的機能物】
970112現代社会学のツール(機能主義)になれている方にはいうまでもないが、 上の「第一」ならびに「第二」の説明は、じつは二つの「機能要件」(機能問 題)の措定に対応している。
すなわち、女性の地位向上を所与とした上で、婚姻が存続していくためにはどう すればよいか(第一の機能問題)、と、男の不能不安をどうごまかすか(第二の 機能問題)である。
したがって、二つの機能問題に対して各々「機能的等価物」があり得る。すなわ ち、「家庭内売春」以外にも、第一の婚姻存続問題への機能物となりうるものが あるかもしれないし、第二の不能不安克服問題への機能物になりうるものがある かもしれない。
それぞれの機能的等価物を探してみると、おもしろいだろう。
しかし、いうまでなく、「家庭内売春」は、このふたつの機能問題を「一挙に両 方」充足するいわば「両立的機能物」である。
したがって、上の二つの機能問題を「一挙に両立的」に充足する仕掛けを、「家 庭内売春」以外に見つけるのは、なかなか難しいかもしれない。
たとえば、「家庭内強姦」が高頻度化する、といったことも考えてみた。が、こ れは「第二問題に対する機能物」ではあっても「第一問題に対する機能物」では なかろう。(だからといって、家庭内強姦が頻度化しないということにもならな いが)。