女性に美に関する一考察

美人の五類型論と、各美人の美に対する戦略

     (卒論)
 
 
 
 
                論文構造設計表・1    

    ・現代女性にとっての美

   主要命題   現代女性にとっての美

    問     現代女性にとって美とはなにか

    答え    現代女性にとって美とは、すべての女性に、最も端的に現れる価値基準の一つである。

    問     価値基準とはどういうことか

    答え    男性支配社会における自分の階級をはかるツールである

    問     どのような階級か

    答え    男性の支配下で、男性に選ばれているか・いないかで決まる階級。美という価値基準においては、美しい女性ほど、男性に選ばれる(第二次アドヴァンテージをえられる。)

    問     なぜ、美しい女性が選ばれるのか。

    答え    美しい女性は、美の階級をあげるために投資をし、努力をした(している)から。

    問     それが、なぜ、選ばれる理由になるのか

    答え    美は、すべての女性に適応されるため、美人は、他の人より美に対して努力をした(する)と、とらえられる。つまり美人であるということは男性社会の女性に求める条件(女性は美しくあるべきである)に忠実であることを端的に表した結果であるといえるから。

                 A1

        論文構造設計表・2

   ・美人の五類型論  

    主要命題    美人の五類型

     問      現在において、美人を考える上で有効な説はなにか。

     答え     「美人の五類型」である。

     問      美人の五類型とはなにか。

     答え     女性を、現在の美醜と美の入手可能性の面から五つの美人に分けた類型である。

     問      どのように分けられるか。

     答え     「過去から確実に美人で、現在においてもびじんである」女性を「確実美人」、「美を手に入れる可能性を持っていて、(美を手に入れたため)現在美人である」女性を「成就美人」、「美を手に入れる可能性を持っていて、(まだ美を手に入れていないために)現在不美人である」女性を「可能美人」、「過去から確実に美人であった、または美を入手したが、現在不美人である女性」を「過去美人」、「美を手に入れる可能性がなく、現在不美人である」女性を「不美人」というように分けられる。

     問      なぜ、このような五類型に分けるのか。

     答え     一般的に、女性は外見で「美人」と「そうでない人」の二類型に分けられるが、実際は、美の入手可能性や、美人といわれ始めた時期などを考えると、五つに分けるのが適当だから。

     問      なぜ、この五類型が美人を考える上で有効なのか               答え     この類型に分けると、各類型ごとの美に対する戦略の違いや各類型間の関係を細かく分けて考えることができるから。                    A2

 

             論文構造設計表・3        

・各美人ごとの美に対する戦略

  1,確実美人

       主要命題    確実美人の「美」に対する戦略

      問      確実美人は,「美」に対してどのような戦略をとるか.

      答え     確実美人は,美という価値基準を支持するが,美だけに頼らない(美以外に,資産などを積極的に手に入れようとする)戦略をとる.

      問      なぜ,という価値基準を支持するのか.

      答え     美という価値基準を支持することで,「自分が美人である」ということが,他の人に対して優位に立つことができるから。

      問      では,なぜ美だけに頼らないのか.

      答え     自分自身の体験から,美は,自分の人生に有利に働くが,美だけに依存することは確実ではなく,また、あからさまに利用すると他の美人の反感を買いかえって不利になりかねないから。

      問      では、どのような戦略をとるのか。

      答え     美を利用できるうちに(美のアドヴァンテージが期待できるうちに利用し)より確実な資産を手にいれようとする。 

   2,成就美人

     主要命題    成就美人の美に対する戦略

      問      成就美人は,美に対してどのような戦略をとるか.                           A3

      答え     成就美人は,もっとも美という価値基準を支持し、コストをかけるが,隠しアイテムとして利用する戦略をとる。

      問      なぜ,もっとも重要視するのか.

      答え     先発の確実美人を見て、美しいことが有利になるということを知っているため、彼女たちはコストをかけて美を手に入れようとする(アドヴァンテージをてにいれようとする)が、確実美人と違い,美は,努力して手に入れたものであるため,美が重要でなければ,努力分の見返りが期待できないから.

      問      では、なぜ隠しアイテムとして利用するのか。

      答え     確実美人の経験から、美を前面に押し出す戦略をとると、他の美人たちに反感を買うことを知っているので、美を重要視していてもおおっぴらには利用せず、隠しアイテムとして利用する。

      問      隠しアイテムとして利用するというのは、どのようなことか。

      答え     美を、内面の良さ+αとして利用する。つまり、成就美人は、性格のよさや、人当たりの良さなど、内面の良さを主、努力して手に入れた美を従として、最も男性うけのよい「性格がよくて明るいのに美人」的な戦略をとる。

   3、可能美人

     主要命題    可能美人の美に対する戦略

      問      可能美人は美に対してどのような戦略をとるか。

      答え     可能美人は、美の重要性を理解しているが、コストをかけずに手に入れようとする戦略をとる。

      問      なぜ、コストをかけずに手に入れようとするのか

    答え     可能美人は、確実美人や成就美人よりも、美を手に入れるのに、より多くの努力が必要となる。それには、より費用や手間がかかるようになるた め、可能美人は、なるたけ金銭的・時間的コストをかけずに美を手に入れようとする。(アドヴァンテージをえるのにあまり積極的でなく、「あわよくば」手に入れようという戦略をとる。)

  4、過去美人

     主要命題    過去美人の美に対する戦略

      問      過去美人は美に対してどのような戦略をとるか。

      答え     年齢などによる美の衰退を否定するが、積極的に美を求めようとしない、または、積極的に美を入手しようとしたり、美のアドヴァンテージを利用する美人を批判する戦略をとる。

      問      なぜ、美の衰退を否定するのか。

      答え     美が、年齢などにより衰退するということを認めれば、それだけ自分の優位性が減少すると思われるから。

      問      では、なぜ積極的に美を求めないのか。

      答え     実際には衰えが見られる美を、再び手に入れるには、かつて以上のコストがかかるということを理解しているから。(アドヴァンテージをえるのに積極的でない戦略をとる)

      問      なぜ、アドヴァンテージを積極的にえようとしたり積極的に利用しようとする美人を批判するのか。

      答え     時代的背景としての美人罪悪論や、かつて自分もえていたはずのアドヴァンテージが利用できないねたみなどから、批判する。

          5、不美人

     主要命題    不美人の美に対する戦略

      問      不美人は、美に対してどのような戦略をとるか。

      答え     不美人は、美も求めるが支持はせず、アドバンテージを批判し、美以外の内面的要素を積極的に高 めたり、美以外の試算などを手に入れようとする戦略をとる。

      問      なぜ、不美人は、美を求めるが、支持はしないのか。

      答え     現在の「すべての女性が美を求める」的な風潮から、思春期以後は、美を手に入れる努力をするが美を支持することは、自分の価値の低さを認めることにもなるので、他の美人のように支持はせず、むしろアドヴァンテージの存在を批判する。                                       

                       

        論文構造設計表・4

   ・各雑誌の「五類型」対応

   1:可能美人雑誌

      主題    an−an,NON−NO,MORE,などの雑            誌            問     an−an,NON−NO,MORE,などの雑            誌は、どの美人のための雑誌か。

      答え    可能美人のための雑誌である。

      問     なぜ、可能美人のための雑誌だといえるのか。

      答え    1、内面の美しさを磨くための記事が、多く掲載さ             れているから。             2、コストをかけずに美しくなるための記事が、多             く掲載されているから。

      問、1    内面の美しさを磨くための記事が、なぜ、可能美            人雑誌である根拠になるのか。

      答え、1  可能美人は、成就美人や確実美人から見て、外見の            美しさの階級において、劣位にある。(男性からの            第二次アドヴァンテージをそれほど得ていない。)             そこで、美という価値基準以外の、「女性らしさ」             や、「性格のよさ」といった価値基準で、アドヴァ            ンテージを得るため。

      問、2   コストをかけずに美しくなるための記事が、なぜ、            可能美人雑誌であるという根拠になるのか。

      答え、2  可能美人が、成就美人や確実美人のように美を手             に入れるには、彼女たちには、成就美人や確実美            人よりも多くの努力や、費用、時間といったコス            トがかかるため、そのコストをできるだけ、少な            くする情報が必要だから。

                     A6

    

   2:成就美人雑誌

      主題    JJ,VARY,などの雑誌

      問     JJ,VARY,などの雑誌はどの美人のための             雑誌か。

      答え    成就美人のための雑誌である。         問     なぜ、成就美人のための雑誌であるといえるの             か。

      答え    美しくなるためのあらゆる情報が、一冊の雑誌に            多量に詰め込まれているから。

      問     なぜ、このことが、成就美人のための雑誌である            根拠になるのか。

      答え    成就美人は、確実美人と異なり、再び不美人とな            り、美という階級の劣位に落ちる不安を抱えてい            るため、常に、美を維持するための情報を多方面            にわたり、多量に入手する必要があるから。

   3:確実美人雑誌

      主題    ELLE JAPON,などの雑誌

      問     ELLE JAPON,などの雑誌は、どの美人            のための雑誌か。

      答え    確実美人のための雑誌である。

      問     なぜ、確実美人のための雑誌であるといえるの             か。

      答え    1、美に関する「HOW TO」的な記事が少ない            から。             2、値段に対して情報量が少ないから。 3、自分が満足するための記事が多いから。             問、1    なぜ、そのような記事が少ないことが、確実美人                 A7                                           のための雑誌である根拠になるのか。                        答え、1   美に対する「HOW TO」の記事は、美を入手す            るためのものであり、すでに美を入手している確            実美人には必要がないから。

      問、2    なぜ、値段に対して情報量が少ないことが、確実            美人のための雑誌である根拠になるのか。

      答え、2   確実美人は、「不美人化」の可能性が比較的小さ           いので、美を維持するための情報も少なくてすむ            から。

      問、3    なぜ、自分が満足するための記事が多いことが、            確実美人のための雑誌である根拠になるのか。

      答え、3   確実美人は、他人の目に自分が十分美しいことを            自覚しているので、これ以上他人の目を意識する            必要があまりないから。

1;はじめに

    頭の中で、美人という言葉を思い浮かべるとき、一人一人違う美人像が浮かんでくるであろう。「美人」または、「美」という言葉は、多くは、個人の主観にまかされているからである。また、その時代によっても美人像は異なる。しかし、「美しさ」の内容は変わっても、女性は美しさを求め、様々な努力をする。では、女性たちにとって美しさとはなにか。また、美しさに対する戦略に違いはあるのか。その点を明らかにすることが本論の研究目的である。    2;美人とは      美人とひとくちにいっても、「美」は個人の主観におうとこ ろが大きいため、統一するのは難しい。また、時代によっても、国によっても、その内容は変化する。そこで、日本における美人のイメージの時代ごとの変化を見てみることにする。

(1)古代日本の美人       古代日本では、中国文化の影響もあり、豊満な女性が美人であった。小玉美意子編『美女のイメージ』のなかの「しなやかに動く美女ー古代日本の美女のイメージ」(岩崎和子、p31-)によると、中国文化における美人は貴族の豊かさの象徴であり、男性好みの美しさであったが、日本に文化が伝来すると、時を経て、神々しさ、しなやかさを備えることが、美人の条件とされるようになった。

「美しいと言うことは、人を引きつける力があるということである。すなわち、古代日本においては、姿形のように目に見えるものを持つだけでなく、目に見えない不思議な力を持つことが「美しい」ことであった。目に見えない不思議な力がヱミとして表出したり、光り輝いて見えたりして、人をひきつけた。」 (しなやかに動く美女ー古代日本の美女のイメージ、p,56、l, 12)

 また、美しさは、「男性優位の恋愛観」ではなかったため女性に特有のものではなく、女性にも、勁さが求められていたと岩崎氏は考える。万葉集において女性の美しさの形容に、生命力あふれる、若々しい健康的な表現が使用されているためである。しかも、これらの表現は、女性に限らず、男性の美しさの表現にも使用されている。このことから、美しさが、女性特有のものとしてとらえられていないことがうかがえる。                  (2)「保護されるもの」としての万葉美人                           しかし、時代が流れて、九世紀後半の平安時代にはいると、特に貴族社会において、女性の美しさはより女性性(穏やかさや優しさ)を求められるようになる。同書の「清らに輝く姫君たち」(梅村恵子、p,61ー)によると、神々しい美しさやしなやかな美しさからより女性性や「保護されるもの」という立場を重要視した美しさは、貴族社会に中国からの儒教文化が定着し、男性的、女性的なものが固定化したことを示す例である。

 平安初期の頃は、貴族社会では「女性にとって、母儀の徳があるか、つつましやかで貞淑な女性であるかどうかが問われ、ついで外貌の美しさに関心がいく。」しかし、時代が下り、女性の活動の場が狭められて行くにつれ、「自らの才能を発揮する場を奪われた女性にとって、美しいことだけが新しい世界を開く鍵になりかねない」社会となってくる。(「」内は「清らに輝く姫たち」から抜粋、p,90)

  つまり、平安期の社会が、男性中心のものとして確立し、成熟するにつれ、貴族社会の女性のライフコースは、保護される立場として美しくあって、その美しさで得た男性の元で妻として生きることに限定されるようになったのである。そして、このことが、美しさが女性特有のものであるという概念を生み出したものと考えられる。     (3)美<労働力

 が、これは貴族社会のことであって中、下流階級においては、まだ、役割としての女性性は重要視されても、外見の美しさは、女性の評価としてあまり現実性を持たなかったのではないか。彼女たちは、妻や娘であると同時に需要な働き手であったからである。弱々しい美しさよりも、働き手としての勁さが重要視される。美しさはだいにぎてきなことであったとおもわれる。また美しさの概念のなかでも、この時代の中・下層階級の女性の美しさには、貴族社会のの美しさよりも古代日本の女性の美しさ(しなやかな勁さ)が生きていたと考えられる。       これは、遥か時代を下って江戸時代にも見られる。同著の「国風の美」(朝倉有子、p,148ー)のなかで、東北から関東など広い範囲で仕事着として着られた衣装について述べられている。      その衣装は、「コギン」と呼ばれるもので、「麻布を藍で濃紺に染めた地に、白いと木綿で刺しつづったもの」で、主に中・下層階級の農民女性が使用していた。これには個人の美意識に基づき、また各年代に応じて、様々な刺繍が施されていた。

 ここに、装うこと、美しさへの欲求が見られる。しかし、はじめは、その華やかさから晴れ着として用いられたが、その保温性など実用的な面か                 2

ら、やがて仕事着として定着する。つまり、この、「コギト」においては、装うことが、労働という実務の陰で、第二義的な意味あいしか持たさ れていないのである。        しかし、朝倉氏は仕事着においてもやはり、美しさは重要であったと述べている。ただ、ここでも、美しく装うことは勤労意欲の向上につながったという可能性を示唆している。

(4)選ばれる美人の登場

  だが、このように母性や勁さの後ろで第二義的に控えていた女性の美しさが、女性をはかる最も重要な点の一つとして社会全般に重要視されるようになったのは、明治時代に入り、身分制度が解体されたことによる、と「美人論」の筆者、井上章一氏は考えている。

  井上氏によると、江戸時代までは、上流階級(武士階級や豪農、豪商))では家柄が、中・下流階級では労働力が重要視されていた結婚相手の女性を、身分制の解体により、上流階級の男性が女性を自由に選ぶことができるようになって、男性がより見た目のよい女性を妻として選ぶようになったことが、社会を「面喰い」(井上、「美人論」p,64)にしたという。

  上流階級の男性にとって、美しい女性を選ぶこと(選ぶことができること)が、男性にとってある種のステイタスとなったことは、やがて、中・下流階級にも浸透し、「面喰いの近代」を作り出す。この、結婚相手を選ぶ基準の「身分から容姿への変化」(「美人論」p,68)に、まず強い反発を覚えたのは、もちろん上流階級の女性たちである。

   (5)美人罪悪論  「うりざね顔で、おちょぼ口、鼻筋はとおって、眼は鈴をはったよう。そして、肌はあくまでも白い。」(井上、「美人論」、p、139、l、12)こんな女性こそが美人であり、美人であるなら身分が低くても玉の輿という手でハイソサエティクラスに進出することができる。  家柄や血統といった、ふるい制度にのっていれば女性としての生活は安泰だと思っていた良家の女性は、突然自分の地位を、下賎の美人の脅かされることになったのである。このため、彼女たちから「玉の輿美人」に対するバッシングが起こる。

「芸者のような身分の女が、自分たちが排他的に独占してきたハイソサエティで、わがもの顔にふるまいだしたのである。   とうぜん、こういう美人に対しては、反感をいだいたろう。何様だと思っているんだという気にも、なったはずだ。じじつ、社交界には、そう                 3

いう気分が蔓延していった。」 (井上、「美人論」p,84、l,7ー)

  そして、上流階級のみならず、中・下流階級にまで、この「面喰い」                  志向が広がるにつれこの「玉の輿美人」バッシングが、しだいに、美人全般へのバッシングに発展していくことになったという。これが「美人罪悪論」(井上、「美人論」p,51)である。    当時、西洋から導入された、平等主義を唱えていた人権論者や倫理家たちは、この事態に大きな関心を示した。一部の美人だけがすばらしい目(つまりはよい人との結婚)にあって、不美人たちは選ばれない。平等主義を唱える彼らにとってこの不平等は、格好の論題となるからだ。そこで彼らは、美人をたたき、不美人を擁護する、「美人罪悪論」を打ち出す。

 「美人罪悪論」では美人は徹底的に非難される。   例えば、「二十世紀初頭まで、美人は、不健康だと考えられてきた。無表情で白痴的、そして仕事をしないとされていた。」 (井上、「美人論」、p,188、l、2、)   「(松下曲水の美人に関する文章を引用して)美人は、男たちの好奇心をひきやすい。だから、すぐ「疵物」になる。醜婦の方が、きよらかだというわけだ。」(同、p、52、l、10)

  これは、美人は不美人(醜婦)に比べてまったくよくないする、この考え方を世間に認識させることで、美人と不美人の格段の不平等を何とか縮めようという戦略であるといえる。それによって、不美人の人権を擁護しようということなのだ。

  (6)美人の定義変更と「平等論的美人観」

  しかし、井上氏は、この概念は両大戦期にすたれてしまったとする。明治期には、美人は労働しない・できないとされてきたが、両大戦期の労働者階級の台頭や、女性解放運動により、美人像が変化を遂げるのである。 「無表情から豊かな表情へ、、白痴から知性へ、怠惰から勤労精神へ。美人の属性は、両大戦期をさかいに、そううつりかわってきた。」(井上、「美人論」、p,189、l,6)           井上氏は、このことについて、「美人の建て前が変化した」(同、p,190、l、13)、と述べている。美人の建て前が変化したならば、美人を悪くいうことは当てはまらない。美人の形容が、これまで、むしろ不美人へのほめ言葉であったフィールドに入り込んでいるからだ。美人を肯定                 4

しなければならなくなってきたのである。 「美人罪悪論」から、「美人肯定論」へ、美人をとりまく環境は一変する。

  しかし、美人肯定論が広まると不美人は、本当に立場がなくなってしまう。そこで、美人の定義の範囲を、もっと拡大しようという動きが現れる。「平等論的美人観」である

 「瓜実顔で色白で、鼻筋がとおりおちょぼ口、そして目は鈴をはったよう。こんなタイプだけを美人だとしておくと、誰でも美人になりうるとはいえないのだ。なんとしても、こういう美人の定義は、変えていく必要がある。大きい口や小麦色の肌が、現代の美貌のしるしだとされだしたのも、そういう要請のおかげだろう。さまざまなタイプを美人だといいくるめることで、美人の範囲をひろげようとしたのである。」(井上、「美人論」p、192、l、10)

 もちろん外見だけではない。というよりも、内面の方が重要視されるようになる。なぜなら、内面は努力によって変えられても外見をかえることは難しいからである。そこで、美人の定義には、外見を表す言葉は少なくなり、知性や、健康、表情など曖昧な言葉が定着した。そして、どんな女性でも美しくなることができるようになったのである。

  この考え方を、大いに利用し、支持したのは、美容産業やファッション産業であったという。(井上、「美人論」、p、278ー)誰でも美人になれるということが一般的になれば、多くの女性が美しくなろうと努力する。そうすれば、美容産業は大きな利潤を得ることができるのである。結果、美容産業は、「すべての人が美人になれる」という「平等論的美人観」をあのてこの手であおり、ますます、美人の定義は広がっていく。そしてすべての女性が美人になった。

                5

3;現代女性にとっての美とは

  これまでは、井上章一の「美人論」、小玉美意子編の「美女のイメージ」を中心に、過去から近代にかけての美人像の移り変わりを見てきた。この章では、現代女性にとって、美とは何であるのか、なぜ、美しさを求めるのかを考える。

  (1)「美の神話」の誕生      アメリカのフェミニスト、ナオミ・ウルフは、著書「美の陰謀ーthe beauty mithー」のなかで、「女性たちは、美しくあるべき」という「美の神話」が誕生したのは、フェミニストによる女性解放運動の第二波が成功した後で、美とは、これまで女性たちが縛られていた、家庭や母性といったものから、より社会に進出しようと主張した時代以降につくられた集団幻想である、と述べている。

  「私たちは今、フェミニズムに対する強烈な巻き返しのただなかにいる。女性の進出を阻むための政治的武器として、女性美のイメージを利用しようという巻き返しである。美の神話、美しさという迷信である。ー中略ー  女は家庭にいるものというフェミニン・ミスティーク(女らしさの神話)から女性が自己を解放するにつれ、それに変わって美の神話が失地回復を図ってきた。」(同著、P,13,L,6)

  女性は、モデルたちの細いからだや、流行の化粧など、メディアから絶え間なく流れてくる美の「作り方」の情報を、当たり前のように模倣してきたが、これは、女性の社会進出を抑制する装置である、というのだ。

  確かに、女性の美しさの基準は、男性の評価でつくられているといえる。これが、如実に現れる現象が、ミス・コンテストである。     (2)ミス・コンテストにおける「絶対的非対称性」      ミス・コンテストにおいては、男性の基準で、より美しい人が選ばれる。(これは男性が審査員である、というわけではない。審査員が女性でも同じである。)男性にとって美しい人が、ミスとして選ばれるのである。ここに、男性社会の「絶対的非対称性」が見られる、と、「フェミニズムの主張」の中で吉澤夏子氏は述べている。

  現代の男性社会では、男性がアドヴァンテージを握っているために、 「女であることの様々な効果が副次的に生じ」ているのである。(同著、『「美しいもの」における平等』、P,106,L9)そして、この男性社会の構造                  6

では、「すべての女性はひとしく女性として扱われ」「どんな女性かによって、さまざまに見られ扱われる」。(同著、P,106,L12)                   「等しく女性として扱われ」ることは、ミス・コンテストでは「女性である以上、等しく「美の神話」に従うこと」を、女性に強いているといえる。そして、すべての女性が、「どんな女性であるか(美の神話に忠実か)によって」男性の評価を受けるのである。

  吉澤氏は、ここに、男性社会の「社会的位置の非対称性」と「評価基準の非対称性」を見いだす。すべての女性が、等しく女性としてみられ、男性の支配下におかれる。そして、すべての女性が、男性の評価基準によって見られ、扱われている、という非対称性である。

  そして、二つの非対称性のために、支配する男性と支配される女性、男性の評価基準で選ばれた女性(吉澤氏は「いわゆる魅力ある」女性といっている)と、選ばれなかった女性(魅力のない女性)という二つの差別を生み出している、と考える。女性であれば等しく男性がアドヴァンテージを持つ評価基準にさらされるということ、また、選ばれた女性は、女性であるということの副次的なアドヴァンテージをえているが、選ばれなかった女性はアドヴァンテージをえられない。ここに差別が存在するのである。     言い換えれば、ミス・コンテストには、選ぶ男性と選ばれる女性、選ばれた女性(美人である女性)と選ばれなかった女性(美人でない女性)という階級が存在するということである。       そして、これは、ミス・コンテストに如実に現れるが、ミス・コンテストだけに見られる現象ではない。実社会においても同様である。      「(実社会において)「女」として魅力的な女性が、同じ程度の女性を越えて、またより能力のある女性を越えて、さらに極端なケースでは多くの男性たちを越えて、高い地位を得たり、評価される、等ということは珍しいことではない。」(同著、P,108,L5)

  (3)美という価値基準

  これらのことから考えると、現代女性にとって美とは、「すべての女性に等しく、また最も端的に現れる価値基準の一つ」であるということができる。               7

     つまり、現代女性にとって美とは、男性優位社会における自分の階級をはかるツールなのである。男性社会における階級は、男性に選ばれているか、いないかで位置づけられる。美という価値基準では、美人であるほど、男性に選ばれ、第二次アドヴァンテージ(吉澤氏がいうところの女性であることの副次的効果)をえられる。そして、より高次の第二次アドヴァンテージをえている女性ほど、より高い位置にいるのである。                      では、なせ美人が選ばれるのか。それは、すべての女性に美の価値基準が等しく現れるということに関係する。すべての女性に、美という価値基準が適応されるために、美人は、美の階級をあげるため、他の女性より多くの投資をし、より多くの努力をした、ととらえられる。故に、美人であるということは、男性社会の求める条件「女性は美しくあるべき」=「美の神話」により忠実であることを示した結果であると、考えられるのである。

  4;美人である女性と美人でない女性

  しかし、これらの考え方は、ただ「美人である女性」と「美人でない女性」の二つの類型で分けているため、「いつも有利な美人」と「いつも不利な美人でない女性」という単純な図式を生みやすいともいえる。

  美人である女性は、美という価値基準では優位にあるが、社会生活では、美のためにいつも利益をえているわけではなく、美人でない女性がいつも不利益を被っているわけではないからである。

  例えば、自分の能力でえたはずの仕事や社会的地位が、「美人だから」と、「女性であることの副次的な効果」(「これは、本来の実力ではない」)と、とらえられがちであったり、美人でない女性の方が性格がよい・親しみやすいといった固定観念で見られやすい、ということが挙げられる。 (また、中高年層の女性による、女子高生の文化の批判にも、この一面があるのではないか、と考える。)                                                        これは、「美人である女性」と「美人である女性」という二類型で考えるため、見落とされがちな「ねたまれる不利さ」や「美という価値基準+α 」という構図である。そこで、「美人」塗装でない人」というだけでない新しい類型を提案したい。

  5;美人の五類型

  新しい類型とは、「美人の五類型」である。現代美人を考える上で、この「美人の五類型」が有効であると考えられる。これは、女性を、現在の美醜と美の入手可能性の面から、五つに分類したものである。                  8   

  では、どのように分類されるのか。   それは、1、確実美人         2、成就美人       3、可能美人       4、過去美人       5、不美人    の五類型である。                  各美人ごとに細かく定義すると、     「生来美人で、現在美人である女性」が、『確実美人』

  「美人になる可能性を持っていて、(美を入手したために)現在美人である女性」が、『成就美人』 

  「美人になる可能性を持っていて、(まだ美を入手していないために) 現在美人でない女性」が、『可能美人』

  「生来美人であった、または美人になる可能性を持っていて、美を樹主したために美人になったが、現在美人でない女性」が、『過去美人』

  「美人になる可能性がなく、現在も美人でない女性」が、『不美人』

  となる。(表1参照)これは、現在美人であるかどうか、また、美の入手可能性がある(あった)かどうか、を基準に分類している。

  2章、3章のように、一般的に、女性の美の基準は、美人であるかないかの二者択一で簡単に分けられることが多い。このため、前章で述べたように、単純な図式に陥りやすいといえる。

  しかし、実際は、現在美人である(と思われる)女性は、他人に美人と認識された時期(生来美人であったかどうか)で分けることができ、現在美人でない女性は、美の入手可能性を持つかどうか、過去に美人であったかどうか、でも分けることができる。そのため、現在の社会では、現代女性の美における階級は二つのイメージにとどまらず、五つの類型に分ける方が適当である。

  また、この五類型に分けることで、各美人ごとの、美に対する戦略、美という価値基準を支持するかどうか、また、アドヴァンテージをえるのに積極的かどうか、アドヴァンテージを利用するのに積極的かどうか、など、各「美人」ごとの違いや、各美人間の階級闘争がより明確に分析できる。そのため、美人の五類型が、美人を考える上で有効なのである。

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  6:各美人の戦略仮説    

 それでは、各美人の違いについて考える。      それぞれの美人は、美に対して、異なった反応をとると考えられる。そこで、以下では、各美人ごとの美に対する戦略の違いの仮説をたてる。    

  @、確実美人

 確実美人は、美という価値基準を支持するが、美だけに頼らない(美以外に資産などを積極的に手に入れようとする、と思われる。    なぜ、確実美人は、美という価値基準を支持するのか。  それは、「自分が、美人である」ということは、「美」という価値基準の上でのみ、他の女性より優位にたてるからである。

 しかし、美という価値基準は、強大である割に確実でなく、また、美を前面に押し出す戦略は、他の美人たちの反感を買い、自分に不利をもたらすことにもなるので、美だけに頼らず、(美のアドヴァンテージが利用できるうちに)もっと確実な資産などを手に入れようとする戦略をとる、と考えられる。

  A、成就美人

 成就美人は、最も美という価値基準を支持し、美を入手するためにコストをかけるが、隠しアイテムとして利用する、と思われる。

 なぜ、成就美人は、美という価値基準を支持するのか。  ここには、確実美人との違いが現れる。成就美人が美という価値基準を重要視するのは、成就美人は、確実美人と異なり、美を努力して入手した、つまり美をコストをかけて手に入れた(アドヴァンテージをコストをかけた入手した)ため、美という価値基準が重要でなければ、努力分の見返りが期待できないからである。

 しかし、確実美人の経験から、美を前面に押し出すと、他の女性たちの反感を買うことになるので、美をおおっぴらに利用せず、隠しアイテムとして利用する。つまり、美を、内面の良さの+αとして利用するのである。性格のよさや、人当たりの良さなど内面の良さを主、努力して手に入れた美を従とする、 「性格がよくて明るくて、そのうえ美人」という最も男性うけのよい戦略が、成就美人の戦略であると考えられる。

  B、可能美人

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可能美人は、現代社会における、美という価値基準の重要性を理解しているが、できるだけコストをかけずに入手しようとする戦略をとる、と思われる。                    可能美人は、確実美人や成就美人などから、美という価値基準が現代社会で は強大で支配的であることを理解しているので、美を入手するための努力をする。    しかし、可能美人は、美を入手するために、確実美人や成就美人と比較して、より多くの努力が必要となる。そのためには、かなりの費用や時間が必要となるため、可能美人は、なるべく金銭的・時間的コストをかけずに美を手に入れようとするのではないか。可能美人は、アドヴァンテージを手に入れるのにあまり積極的でなく、「あわよくば手に入れよう」という戦略をとると考えられる。

 C、過去美人

 過去美人は、美の年齢などによる衰退を否定するが、積極的に美を入手しない、または、積極的にアドヴァンテージをえようとしたり、積極的にアドヴァンテージを利用しようとする美人を批判する戦略をとると思われる。

 過去美人は、過去、確実美人か、成就美人のいずれかであったと思われるため、美という価値基準を支持するが、年齢などによる美の衰退を否定する。なぜなら、美の衰退を認めれば、それだけ、美という価値基準上の自分の優位性が減少するからである。

 しかし、現実として、肌の衰えや体型の崩れ等、美に衰退が見られることを認識していて、美を再び手に入れるには、かなりのコストがかかることが予想されるので、積極的には美を入手しないと思われる。

 また、育ってきた時代背景に美人罪悪論の名残があったり、かつて、自分もえていたはずのアドヴァンテージが、今では、利用できないことに対する、「ねたみ」から、積極的に美を入手しようとしたり、利用しようとする美人たちを批判するものと思われる。

 D、不美人

 不美人は、美を入手しようとするが、美という価値基準を支持せず、むしろ、美という価値基準上にあるアドヴァンテージに批判的で、美以外の内面的な要素を積極的に高めようとすると思われる。

 現代社会の「すべての女性が美を求めるべき」的な風潮から、美を入手する努力をするが、自分の不利性を認めることになるので、美という価値基準を支                  11

持することはせず、むしろ、美という価値基準にあるアドヴァンテージというものの存在を批判し、内面的な要素を磨くことにコストをかけたり、もっと確実な資産などを求める戦略をとると考えられる。

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  7;仮説の検証

  (1)仮説の検証方法

 前章では、女性を各美人ごとに分類し、その戦略の仮説を述べた。この仮説を検証するため、主に、二つの分析方法をとることにする。      一つは、アンケートを利用する方法である。これは、十代から四十代までの女性を対象に、美しさに関するアンケートを実施する。アンケートの目的は、各美人が女性の中に占める割合や、異性に対する戦略を調査するためである。     もう一つは、メディアの調査として、女性がよく読む雑誌の言説分析と、エステティックサロンの広告の言説分析である。女性が美に関する情報を入手する、最も身近なメディアは雑誌である。そのため女性の読むほとんどの雑誌には、美に関する記事が載せられており、また、その種類も実に様々である。そこで、女性の読む雑誌を分析することで、女性の美に対する戦略が見えてくるものと思われる。     また、「美の入手」を商品としているエステティックサロンの広告は、女性が「美を入手する以前と入手した後の美の階級における差」を目にする最も身近な機会の一つである。このような広告類を見て、エステに通った結果、美を入手する女性を少なくないと思われる。そのため、これを分析することで、なぜ、美を入手しようと思うのか、そして、女性がどのようにして美を入手していくか、そのプロセスが考察できると考える。     以上二つの方法から、現代女性の美に対する戦略を検証する。

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  (2)アンケートによる検証

  それではまず、アンケートの検証から行う。

  アンケートは、十代から四十代の女性を対象に、93名に行った。そして、そのうち92名分を使用した。各年齢層の内訳は、十代が19名、二十代が25名、三十代が23名、四十代が24名である。

  まず、アンケート全体の各美人の内訳を見てみる。すると、成就美人 が38名(約42%)と最も多く、次いで不美人が22名(約24%)、可能美人が20名(約22%)で、確実美人の12名(約13%)であった。(小数点以下は四捨五入)

  全体的な特徴を見ると、明らかに表れたものは、「男性に好かれる方だと思いますか」という質問に「はい」と最も多い割合いで答えたのは成就美人で、実に68%を占めるということである。また、クレジットカードを最も多く利用していたのも成就美人であった(10名・よく利用すると答えた人の約56%)。そして、ほとんどの女性(85名、約93%)が、「美人は得だ」と答えている。これは、ほとんどの女性が、美の価値基準を支持しているから、と考えられる。

  次に、各年齢層ごとの美人の内訳と、その年齢層に見られる特徴をを見てみる。  

  十代は、成就美人と不美人がおおく、それぞれ6名ずつ(約32%)であった。次いで可能美人は5名(約26%)、確実美人は2名(約16%)であった。

  そして、いくつかの回答からでた明らかな特徴を挙げると、成就美人と可能美人と不美人は、他の質問はほぼ同じような割合の回答であったのに、「異性に好かれると思いますか」という質問にだけ、成就美人の方は、50%の人が「はい」と答え、可能美人と不美人の方は一人も「はい」と答えていなかった。その他の質問とあわせると、成就美人の方が「明るく、男性と話すのが好きで、異性に好かれると考えている」という傾向が見られた。

  二十代では、成就美人と可能美人がおおく、それぞれ9名ずつ(約36%)であった。次いで確実美人が4名(約16%)、不美人は少なく3名(約12%)と分けられた。    14

  

     二十代で見られた特徴は、「男性に好かれていると思いますか」という 質問に「はい」と答えた人は、美人度があがるごとに少なくなることである。ただこれは、回答の絶対値が少ないため、答えた人が一人減ってもその割合は大きく減るので、あまり明確に表れた、とはいえない。

  三十代では、成就美人が最も多く10名(約43%)、次いで可能美人と不美人が5名(約22%)、確実美人は4名(約17%)であった。

  三十代に特徴的だったことは、最もクレジットカードを利用する年代だが、とくに成就美人の利用率が高く、ほぼ半数がクレジットカードを利用していたことである。また、「男性と話すことは好きですか」「男性に好かれる方だと思いますか」という質問には、成就美人がより多く「はい」と答えている。意外なことに、確実美人は、どちらの質問にも一人しか「はい」と答えていない。

  四十代は、ほとんど成就美人と不美人に二分された。最も多いのは成就美人で13名(約52%)、次いで不美人が9名(約36%)であった。可能美人と確実美人は各一名ずつ(約4%)となった。

  四十代で特徴がでたのは、四十代のほとんどの人が自分を「明るく、男性と話すのが好き」と答えているが、成就美人は、92%の人が、「男性に好かれる方だと思う」と答えているのに対し、不美人は、22%の人としか、そう答えていなかったことである。

  このように、アンケートの回答から特にわかることは、成就美人は、男性からのアドヴァンテージを得ていることに自信を持っているのに対し、可能美人と不美人は、アドヴァンテージを得ているかどうか、自信がないということである。これは、女性にとって、男性のアドヴァンテージを得るための「美の価値基準」がいかに深く浸透しているか、を表しているといえる。

 

   

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  (3)エステティックサロンの広告の分析

  女性が、最も身近に、またはっきりと「美の階級の差」を感じるのは、 エステティックサロンなど、美容産業の広告類ではないだろうか。これらは、新聞の折り込みや、雑誌の後ろの方のページなどで、頻繁に目にする。 最近は、テレビなど映像メディアでのコマーシャルも盛んである。そこで、次は、これら広告、特に、折り込みや雑誌の広告を分析することで、女性の「美を入手するプロセス」を検証する。

  まず、エステの広告で最初に目につくのは、中心に据えられた美人(たち)である。特に最近は、スーパーモデルや、女優、歌手など、有名人をイメージキャラクターにするところが増えている。

  このことは、女性にある種の期待を与えると思われる。なぜなら、エステがこのような人々をキャラクターとして使用したことで、「この人たちは美を入手してこのようになったのだから、私もなれるかもしれない。」という、「美の入手可能性の錯覚」を生じさせる効果があるからだ。

  また、どのエステ会社も体験コースがもうけられていることが特徴的である。体験コースは、値段的は1000円から3000円ぐらいの「財布にあるお金で気軽に行ける」設定で、回数もほとんどが一回だけ、と、女性が気軽に行きやすいものである。また、これとは別に、キャンペーンなどで、料金を普段より安く設定したコースもある。これらのことは、「美の入手容易性の錯覚」を生じさせる効果があると思われる。

  そして、どの広告にも、エステ体験者の体験談が載せられている。実はこのことは、一つのモデルを示している。そのモデルとは、「可能美人から成就美人による階級の上昇」である。体験談の多くには、エステに通う前と通った後の二つの写真が載せられていて、比較ができるようになっている。その写真から、一目で、階級の上昇ぶりが見て取れるようになっているのである。このことが、さらに「美の入手可能性の錯覚」を増すのである。

  以上のような錯覚の連続で、女性は美を入手しようと考える。そしてこのことは、身近にある多くのエステの広告で、日常目にすることができるのだ。エステ広告は、単に、エステの利用を促すためのものではない。エステの広告は、「美の入手プロセスの」一つのスタートラインであり、また、「美の価値基準」をより強固にするための、最も効果的なメディアの役割を持っているのである。    

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  (4)雑誌の特徴分析

 次に、よく女性が読む雑誌を分析する。週間、月刊などの雑誌類は、女性が美に関する情報を入手するための、最も身近で、最も簡単な手段の一つである。そのため、様々な種類の雑誌が、様々な美の情報を載せて、本屋の店頭に並ぶ。

 そのなかから今回分析に利用したのは、  ・SEVENTEEN・NON−NO・JJ・NORE・an−an・ VARY・ELLE JAPON・CRASSY・すてきな奥さん の、九種類の雑誌である。

  これらの雑誌は、読者の年齢層が異なり、また、雑誌の値段や、記事の内容、ページ数なども異なる。このため、美に対する取り組み方にも、違いが表れる。この美に対する取り組み方の違いが、読者の美に対する戦略にも大きく影響してくると考えられる。これらの雑誌を分析材料とするのはこのためである。そこで、まず、これらの雑誌の特徴を分析することにする。    

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        (5)各雑誌ごとの特徴

 ここでは、各雑誌の特徴を挙げる。特に、記事の内容、モデルの特徴、広告、値段とそれに対する情報量などに注目した。      1、ELLE JAPON;・性格面や健康を高めるといった、啓発的な記             事が少ない。内面の問題よりも、ファッション             や、メイクといった外見や、本、演劇、アート             といった流行の紹介記事が主。             ・規範的なキャプションが少ない。             ・個性重視。流行重視。流行=美といった感じ。             ・笑顔のモデルがほとんどでてこない。多くがボ            ーっとしていたり、無表情である。これは、異性            の視線を意識していないことになると考えられ             る。             ・衣服、化粧品の広告が多い。しかもほとんどが             海外ブランド。エステの広告はゼロ。             ・服でも、化粧品でも、人物でも、都市でも、と            にかく「ブランド」重視。だが、「ブランドの方            が、使いやすさや、効能の面を考えるとと結局             得」という考え方のようである。とにかく何でも            ブランド、というのではない感じ。             ・商品全体が高価なものが多い。                  2、CRASSY;   ・テーマは「コンサバ」。すべてにおいて、高級    (定価650円)  感や、質の良さ、または、育ちの良さなどが、強            調されている。また、「大人の」雑誌であること            も強く全面に出している。             ・流行を取り入れすぎない。化粧の仕方にして             も、服にしても、流行を追うのではなく、「品よ            く、部分的に」取り入れるのみにとどまってい             る。             ・紹介される商品が、海外ブランドが多い。ま             た、日本のブランドでも、いわゆる「老舗」と呼            ばれるようなところが多い。             ・服や、化粧、アクセサリーなどおしゃれに関す            る情報は半分ぐらいで、後は、旅(これもいかに            高級な旅をするか、がテーマのようだ)や、食            (これもまた然り)といった、人生をいかに楽しむ            か、といった情報が載せられている。これは、他            の雑誌にあまりない特徴といえる。                  18             ・広告は、海外ブランドのものが多い。しかし他            の雑誌と比較して、かなり少ないといえる。そし            て、エステの広告がかなり少ない。             ・とにかく笑顔のモデルが多い。にこやかで上品            な笑い方のモデルたち。無表情の女性はほとんど            いない。異性へのアピールの規範とも考えられ             る。            

  3、MORE  ;  ・「誰かをお手本に」ファッションや、メイク、    (定価540円)  を学ぶというのが基本姿勢といえる。特に、着こ            なしを海外の特定都市(パリ、ミラノ、ニューヨ            ークなど)のふつうの女性から「学ぶ」という記            事は、に三ヶ月に一度位載っている。             ・「着痩せ」の情報は、ほとんどと言っていいほ            ど載っている。やせることも重要だが、まず痩せ            て見えることから始めなければならないといえ             る。             ・商品は、高いブランド品から、やすい日用品ま            で、様々である。だが、主に、いかにやすく挙げ            るか、いかに、少ない予算で、おしゃれに見える            か、というのが、特集記事となる。高級感はあま            りない。むしろ庶民的。             ・ほとんどが、ファッションなどに関する記事だ            が、結婚や、恋愛、インテリア、健康など、生活            に身近な記事も、割合多くとっている。(生き方            指南的な記事もよく見られる。)             ・広告に、エステ関連のものが多くなる。しか             も、「いかに簡単に、早く」効果があらをれる             か、をうたい文句にしている。また、日用品の広            告も増える。             ・プレゼントものの企画が多い。また、その人数            の規模が比較的大きい。             ・モデルの表情が、「多表情」。笑顔にしても上            品な「ほほえみ」から元気な「笑い」まで、とヴ            ァリエーションにとんでいる。

  4、J J   ;   ・女子大生対象の雑誌といえる。取り上げる人物   (定価590円)   も、十代後半から、二十代半ばぐらいまで。             ・よく取り上げられる人は、梅宮アンナや、松田            聖子といった、ファッションやメイクが話題にな            る人。または、スーパーモデル。             ・モード重視の雑誌である。とにかく、流行に敏            感でなければならない、といった感じ。商品の種            類も、主に、「いかにもブランド」中心で、値段                 19             ももちろん高いものが多い。             ・とにかく情報量が多い。細かい字で、たくさん            の商品を紹介している。                       ・特定のブランド、にこだわる。ブランドといっ            ても服や化粧品だけではなくて、都市名の特定の            ブランド、や、職業の特定のブランド、のよう             に、すべてにブランドを求める。(女子大生が一            種の「ブランド」であったバブル時代の名残であ            る。)                           ・あおり文句が多い。例えば、「どこでも完売!            私もつけたい!」「ワンピがあれば大丈夫!」             「今「カッコイイ」ってこんなこと」「絶対ほし            い!」「全部みたい!」など。             ・結婚、異性に関する記事が、よく載っている。             こういう服が、男性うけする、というものから、            結婚が決まったら、こんなドレスや、こんな指輪            がほしいといったことなど、物に関することが多            い。また、結婚願望が高い。

  5、NON-NO  ;  ・商品が、全体的に、安くですむ物、あるいは、    (定価430円)  小物の割合が多い。(3000円以下とか、10000円以            下とか値段を区切ることが多い)あるいは、いか            に少ない洋服で、多く着回すことができるか、い             かに一枚の服を、いろんなヴァリエーションでき            るか、といったお金をあまり掛けないオシャレを            多く紹介している。             ・「ルール」「基本」と言ったことばがよく使わ            れる。ファッションや、メイクの教科書みたい             に、細かいことを、写真や、イラストで詳しく説            明する。しかし、各号によって矛盾しているとき            も多い。             ・流行をあまり追いすぎない。どちらかといえ             ば、男性うけしそうな、ファッションであった             り、メイクである。モデルも、明るい「元気な感            じの子」が多い。また、聞き上手、甘え上手と             いった、「男性に受ける性格のよさ」に関する特            集が、他の雑誌より多い。             ・恋愛に関する記事が多い。が、友達に関する記            事は、思ったより少ない。             ・広告に、「5000円以下で買える物」「日用            雑貨」「お菓子」等が増える。エステの広告も多            い。             ・プレゼントの企画が多い。             ・必ず、正座別、血液型別、姉妹型別といった、                 20             なにかに分別して性格を分析した記事や、占いの            記事が載っている。             ・ページ数が多い。主に写真やイラスト入りの記            事、が特徴。絵本のよう。   6、SEVENTEEN; ・女子高生色の強い雑誌。ファッション全体よ     (定価390円)  り、小物中心に紹介している。全体的に高い商品            は、でてこない。が、ブランド物にも、いわゆる           「女子高生ブランド」にはこだわっているようだ。             ・紹介されている品物はやすいが、種類は、女子            大生や、OLなどと変わりはない。化粧も、フルメ            イクで、流行もよく取り入れている。             ・学校ではやっている物や、制服でのオシャレ、             おすすめのお菓子など、学校関連(または、学校            生活関連)の記事や、友達関連の記事がとても多            い。また、アイドル関連な記事も多い。             ・友達感覚の書き方がされている。例えば「もっ            ともっと小顔になるぞ!」とか「私たちの学校生            活は6時間目が終わってからSTARTするの               だ!!」なにかを学ぼうというより、みんなやっ            てるからこうしようというような「仲間感覚」の            記事が多い。   7、an−an;  ・週刊誌であるためか、各号一つのテーマを取り            上げ、それについて、特集を組むというやり方。             基本姿勢は、「かっこよく内面的にも充実した、            個性のある女性、をめざそう」である。             ・流行と「個性」重視。ただ、重要視される個性            とは、「性格のよさ」と、「流行への敏感さ」を            融合させたもの、という感じ。また、男性にも女            性にも好かれる女性を目標においているようで、             内面を磨く特集記事が定期的に組まれている。             美しさも性格のよさも、女性らしさも男性のよう            にさっぱりとしたさわやかさも、という「欲張り            雑誌」といえる。また、それに向かっての努力を            さりげなく強要する。             ・ファッションやメイクなど、美容関連の特集だ            けでなく、金融情報や、インテリアの特集など、             「独身女性の生活情報記事」もよく取り上げられ            る。             ・広告は、半分から後ろは、ほとんどがエステ関            連の広告。紹介する商品は、やや高めの物が多い            が、広告の商品は、あまり高くない庶民的な物             や、小物がほとんどである。             ・他のモード雑誌のように、モデルは無表情が多            い。笑顔は、あまり見られない。「女性にも男性                 21             にも好かれる」ことが一つの目標であるはずなの            に、誰にも好かれる「笑顔」がないという矛盾が            見られる。                                                     8、VARY;   ・「コマダム」雑誌。バブル時代、「ブランド」    (定価600円)  の女子大生だった女性たちが、結婚して家庭に             入っても自分を装うことにかける熱意や、金額を            けちらず、子どもや、夫にも、「オシャレ」を求            める女性のことを、「コマダム」というが、まさ            に、その「コマダム」たちのための雑誌といえ             る。             ・主婦向けの雑誌には珍しく、ファッションやメ            イクといった記事がかなりを占める。しかも、             「ブランド志向」で美しくあることに、金を惜し            まない。JJ世代らしく、重視するブランドは、            「いかにも海外ブランド」が主流である。             ・流行には、この世代にしてはかなり敏感。モー            ド系のメイクなども積極的に取り入れている。             ・キーワードは「ブランド」。服にしても、化粧            にしても、また、取り上げる都市や、趣味の楽し            み方まで、JJ世代よりは、上品路線だが、やは            り、こうすれば「リッチ」というブランド路線に            は変わりはない。             ・モデルは上品なほほえみの顔が主流である。             ・広告は、主婦雑誌にしては、かなり少ない。             わずかに、後ろの方にエステ関連の広告が見られ            たぐらいで、後は、化粧品が少し、といった感じ            である。ただ、本文が、ほとんどブランドの広告            のような役割を果たしているため、今更ブランド            の広告など必要ない、というところなのか。

  9、すてきな奥さん;・典型的主婦雑誌。ほとんど、「美しくなるため    (定価490円)  の記事」がない。あっても、いかにお金をかけず            に楽しむか、というくらい。             ・しかし、ダイエット関連の記事は、特集とし             て、たまに組まれる。しかし、これは、「美し             く」というより、「みっともなくないように」と            いう意図が見えるように思われる。

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  (6)共通する雑誌の特徴    以上、各雑誌ごとの特徴を並べたが、各雑誌ごとに、値段とページ数の割合や、記事の内容、モデルの表情や、レイアウトなどで、多くの共通点が見られた。    そこで、共通する項目で分類し、各雑誌がどのような特徴を持っているか分類する。次に挙げるのは、各項目ごとの、明確であった特徴や、留意すべき点である。     <1>ページ数が少なく、定価が高い雑誌は、外見を美しくする要素についてはよく取り上げるが、内面を美しくする要素については、あまり取り上げない。精神面に関係するような記事でも、内面を磨くというより、自分自身がいかにリラックスするか、自分自身がいかに贅沢をするか、ということに重点が置かれている。また、エステティックサロンなど美容に関する広告が少ない。   外見を美しくする要素についても、よりハイセンスで、より高級な物がを取り上げている。美しくすることにより大きい投資をする。

 <2>流行色の強い雑誌は、モデルが表情に乏しい。どのモデルも完璧なメイクで流行のファッションだが、女性らしい美しさというよりも、彫刻のような「無機質な美しさ」である。このような雑誌は、モデルは、なぜか外人が多い。

 <3>「プラダ」「グッチ」「シャネル」など、「いかにもブランド」をよく紹介する雑誌は、モデルの表情が、小悪魔的なのが多い。「かわいらしいけど、わがままそう」な表情をよくとる。また、外見を美しくするための物だけではなく、旅行や、結婚、職業といったことにも、ブランドを強く意識する。このような雑誌は、海外の流行を庶民的に伝えるメディアであるので、わかりやすくするために、あおり文句(キャプション)が多い。   また、あまり、内面の美しさを磨くための記事は登場しない。   このような雑誌は、値段は割合高いが、ページ数が多く、たくさんの情報を詰め込んで伝える。そして、エステなど美容関連の広告がとても多い。

 <4>主婦層の雑誌は、料理や、生活上の知恵など、日常生活に関係する記事の割合が増える。しかし、この中で、ファッション関連の記事の割合が多いか少ないかで、「美人」度が違ってくると思われる。

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<5>きちんとした背表紙がない雑誌は、あまり高級感がなく、商品も、高 い物から、比較的庶民的な値段のものまで幅が広い。このような雑誌には、 「この人からooを学ぶ」とか「愛される女になるには」など、多くの「内 面の美しさを磨く記事」(生き方指南記事)が、必ずと言っていいほど掲載されている。また、血液型や星座別、などでの恋愛の法則など、眉唾ものの記事も多い。   値段をあまりかけないオシャレというのもこのような雑誌のテーマで、 いかに、少ない服を着回すか、いかにわずかな工夫できれいになるか、といった情報が多い。そしてモデルの表情が豊かで、笑顔が多くなる。   そして、大人数を対象とした、プレゼント企画が多いのも特徴の一つである。

  (7)雑誌の特徴比較

  以上、(6)章では、共通する項目を持つ各雑誌の特徴を調べたが、 (7)章では、具体的に、三冊の雑誌に絞って考察する。

  考察する対象は、ELLE JAPON,JJ,MOREの三冊である。これらの雑誌は、読者の年齢層が比較的近く、また月刊誌であるために、比較し、考察するのに適していると思われる。また、これら三冊の雑誌には、(5)章で挙げた特徴が顕著に見られた。

  まず値段の面から比較してみると、ELLE JAPONは定価600円と三冊の中では最もたかい。次いで、JJが定価590円、MOREが定価540円である。

  次に、ページ数を比較すると、ELLE JAPONが162ページ、 JJが352ページ、MOREが432ページ、とMOREが最も多い。 上の、値段の面もあわせて考えると、MOREが最もコストパフォーマンスがよいということがわかる。それと比較して、ELLE JAPONは値段が高い割にページ数が少ない。JJは、値段は割合高いが、ページ数も多い。

  上と関連して、次は情報の量で比較すると、ELLE JAPONは、大きめの写真などを多用して見やすいが、一つの商品に対する文字による情報量が少ない。 JJは、写真は小さいがたくさんあって、それに対する文字による情報も細かく、かなり多い。 MOREは、写真やイラストを多用し、文字情報も多いが、JJよりも写真が大きいため、一冊の情報量はJJほど多くない。情報という面と値段の面から考えると、コストパフォーマンスは、JJがよいと考えられる。

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  また製本の仕方にも違いが見られる。ELLE JAPON とJJは きちんと背表紙があるが、MOREは綴じられているだけで、背表紙がない。ここで、ELLE  JAPONとJJには高級感が、MOREには、親しみやすさが生じていると思われる。                        そして、表紙のモデルにも違いが表れる。ELLE JAPONは、フ ランスの有名雑誌[ELLE]の日本語版であるため、表紙にも有名なモデル(いわゆるスーパーモデル)を起用している。JJは、梅宮アンナに代表される、女優やタレントなどの日本の「ブランド」ファッションリーダーが表紙をつとめることが多い。MOREは、無名の外国人女性が多く表紙を飾っている。

  また、ブランド、ということでいうと、ELLE JAPONは、海外ブランドがほとんどだが、特定のブランドに関わらず流行の商品を紹介している。JJは、特定の海外ブランド、日本人にもなじみの深い「いかにも」ブランドの商品を主に紹介している。 MOREは、海外のブランドもの中心ではなく、主に、日本のブランドを紹介している。

  つぎに、ELLE JAPON二は、エステの広告がほとんどなく、JJとMOREは、約100ページ近くもエステや美容関連の広告が載せられていることも、大きな違いに挙げられる。

  そして、記事の内容だが、ELLE JAPONは、現在のファッションや美の最先端・モードを主に記事にしているのに対して、JJは、流行色は強いが、流行だけでなく美に関するあらゆる情報を掲載している。また、美に関する「HOW TO」の記事が多くなる。 MOREになると、流行色は薄らぎ、美に関することを日常的に取り入れやすく説明し、その採り入れ方を紹介している。また、MOREは特に二つの雑誌と異なり、心、あるいは内面の問題や健康を扱った記事が多く見られるのが、他の二つにない特徴といえる。      (8)雑誌の戦略と、美人の戦略

  以上、各雑誌の特徴のを比較したが、これらの比較から、各雑誌の美に対する基本姿勢が読みとれる。

  ELLE JAPONは、美に関する情報を、最新流行のものだけ、あるいは、モード感のあるものだけ選んで提供していると。JJは、市井の流行やブランドなど、美に関する様々な、また多くの情報を提供している。 MOREは、外見の美ばかりでなく、内面の美しさを磨くことも重視している。              25                     

  これらの美に対する基本姿勢の違いは、なぜ表れるのであろうか。同じくらいの年齢層を対象とする雑誌であるのに、美に関する姿勢が異なる。これは、先に述べた、美人の五類型論に関わってくるのではないだろうか。つまり、年齢層は同じでも、対象としている「美人」の階級が異なるために、このように、美に対する基本姿勢が異なるのではないかと思われる。

  それでは、これら先ほど取り上げた三冊の雑誌は、それそれどの「美人」階級に対応しているのだろうか。

  最もわかりやすいのは、MOREの例であろう。                   

MOREが対象としているのは、可能美人である。なぜ、MOREが可能美人のための雑誌であるのか。その根拠は二つ挙げられる。一つは、MOREには、内面の美しさを磨くための記事がより多く載せられている、ということである。      可能美人は、成就美人や確実美人などと比較して、美の階級において劣位にある。(外見の)美という価値基準だけでは、男性からの第二次アドヴァンテージを得にくい。そのため、第二次アドヴァンテージを得るためには、美という価値基準以外の「女性らしさ」や「性格のよさ」「健康」といった、別の価値基準で優位に立つ必要があるからである。MOREは、そのための情報を、美に関する情報とあわせて載せている。

  またもう一つは、MOREには、コストをかけずに美しくなるための記事が多く載せられているということである。なぜなら、可能美人が、美を入手して、成就美人となるには、成就美人や可能美人が美を維持することよりも、多くの努力や、費用、時間といったコストがかかるため、そのコストをできるだけ少なくする必要がある。そのための情報を提供するため、コストをかけず美しくなる方法を載せているのである。以上二つの根拠から、MOREは、可能美人のための雑誌であることがわかる。

  このMOREの他に可能美人に対応する雑誌は、an−an,NON−NOなどがあげられる。

  それでは、JJは、どの「美人」に対応しているのであろうか。注目すべき点は、その情報量の多さである。この点に注目して考えると、JJは、成就美人のための雑誌である。

  なぜなら、JJには、他の雑誌には類を見ないほど美に関する情報が多                  26

いからである。美しくなるためのあらゆる情報が、一冊の本に詰め込まれているのである。それは、「美の価値基準」を特に支持している証明であり、また、「美人の再不美人化」にたいする不安の現れといえる。

  成就美人は、美を後天的に入手したため、確実美人と比較して、美を失い再び「不美人」となる可能性が高い。そのため絶えず美を維持するための情報を入手する必要がある。よって、美に関する情報を多く載せているJJは成就美人のための雑誌であることがわかる。

  このことは、エステティックサロンの広告が多いことでもわかる。成就美人にとって、エステは、「再不美人化」した際の「再美人化」のための手段である。このエステの広告が多いということは、成就美人の再不美人化不安の大きさを物語っている。

  しかし、6章で述べた、[美を「内面のよさ+α」として利用する]ということに関しては、立証できるような記事や特徴がほとんど見あたらなかった。そのため、成就美人は、美を最も支持することは読みとれたが、美を「内面のよさ+α」としてとして利用するかどうかはわからなかった。                     また、同じように、成就美人のための雑誌として、VARYや、Can −Canなどが挙げられる。

  最後に、ELLE JAPONについて考える。      ELLE JAPONは、確実美人のための雑誌である。その根拠は三つある。一つは、美に関する「HOW TO」的な記事が少ないことである。他の二つの雑誌は、毎号必ず「HOW TO」記事がたくさん載せられている。しかし、ELLE JAPONには、そのような記事が少ない。

  それは、「HOW TO」記事が、美を入手したり、「美人の再不美人化」の不安から逃れるため美を維持するためのものだからである。確実美人は、美をすでに入手しており、また「不美人化」の不安も少ないため、そのような記事があまり必要ないのである。 

  次に、値段に対して、美の情報が少ないことである。これは、上で述べたことと同じで、「不美人化」の不安が少ないため、たくさんの情報を得て美を維持する必要がないからである。また成就美人の「再不美人化不安」の象徴であるともいえる、エステティックサロンの広告がほとんどないことでも、「不美人化」の不安がないといえる。

  最後は、自分が満足するための記事が多いということである。他の雑誌                  27

には、「こうすればよく見える」とか「こうすれば人によく思われる」など、他人の目を意識した記事が多いが、ELLE JAPONには、どちらかというと、自分自身の視線や感覚を重視した記事が多い。これは、他人の目から見て自分が十分美しいことを自覚しているので、これ以上他人の目にどのように映るかを意識する必要がないからだと思われる。

  これら三つのことから考えて、ELLE JAPONは、確実美人のための雑誌である、といえる。

  ELLE JAPONと同じように確実美人に対応する雑誌は、他に、CRASSY,COSMOPOLITANなどが挙げられる。

     

                 

                    

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   (9)分析結果の検証

  以上、二つの方法を用いて、現代女性をとりまく「美」を分析してきたが、そこでいくつかのことがわかってきた。

  アンケートからは、特に、成就美人が、他の美人層と比較して、男性からの「第二次アドヴァンテージ」を受けていることに自信を持っていることがわかった。これは、成就美人の美に対する戦略に、大きく関わってくると思われる。なぜなら、美を入手したのみではなく、美を利用することに積極的であるということになるからである。

  生来的に美を持っていた確実美人よよりも、後天的に(何らかのコストをかけて)美を入手した方が、積極的に第二次アドヴァンテージを得ようとし、また、得たと確信している。ここに、成就美人と、確実美人の大きな違いがあると考えられる。

  また、エステ広告の分析から、可能美人から成就美人への、「美の入手プロセス」が明らかになった。美を入手できるのは、エステティックサロンばかりではない。これは、単に、一つのきっかけすぎない。だが、(4)で分析したような、「美の入手プロセス」がどの美容産業でも必ず存在すると思われる。

  そして、エステ広告には、可能美人から成就美人への、「階級の昇格」が象徴的にかかれている。成就美人になることで、「第二次アドヴァンテージ」を容易に手に入れることができる。女性にとって、より生きやすい環境を手に入れることができるのである。

  しかし、別の見方もできる。雑誌の分析で明らかになったように、可能美人の方は、単に外見だけではなく、内面の良さ(性格のよさや健康)の入手にも積極的であることがわかる。

  これは、可能美人が、成就美人や確実美人に、美の階級で劣位にあるので、もっと別の基準で第二次アドヴァンテージを得ようとするからであるが、その可能美人が、うまく美を入手することができたら、まさに「性格がよくて明るくて、そのうえ美人」な成就美人ができあがるのである。そして、可能美人がより長い人ほど、このような傾向が見られるのではないか。

  以上のことから、男性のアドヴァンテージを最も得やすいのは、美の階級では最上位の確実美人ではなく、より劣位の、「可能美人の期間が長かった成就美人」だと考えられるのである。                   29

   8;まとめ

  5章で私が提案した、各美人ごとの美に対する戦略は、いくつかの点では反駁されたが、基本的な構造では、分析の結果から、証明されたのではないだろうか。また、各美人の違いも、かなり明らかになったと考える。

  ともあれ、女性は、昔から「美しい性」だと信じられ、美を入手するためにさまざまな努力を行ってきた。細くなるために肋骨を抜いたり、足を小さくするために無理に締め上げたり、信じられないような努力をしてまで、「美しい性」であり続けてきたのである。

  この状態は、今も変わっていない。むしろ、女性特有のものと思われていた母性が崩れつつある今、この状態はさらに加速しているのではないか。 現在は、すべての女性に一様に「美の階級に属すこと」、そして、「美を入手する努力をすること」を暗に強要している時代なのではないだろうか。

  これは、単に「美人である女性」と「美人でない女性」の二つの構造だけでは、この加速状態は見えてこない。美人を分類することで、よりはっきり見えてくるのではないだろうか。

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