英国の大学では、オンライン文献データベース・ジャーナルは、もはやジョーシキ?
   −大学間デジタルデバイド、「負け組」にならないために−

                        桜井芳生020710

                        sakurai.yoshio@nifty.com

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もはや、図書館と情報処理センターは、別物ではない?

 みなさんこんにちは。法文学部人文学科で現代メディア文化論を担当しております桜井ともうします。ただいま鹿児島県育英財団さんのご援助・学内のみなさまのご高配をえて、(ロンドン大学の一つのカレッジ)ロンドン・スクール・オブ・エコノミックスで、研修させていただいております。さすがにノーベル経済学賞受賞者を輩出している大学だけあって、とても勉強になることが多いです。ここでは、図書館・文献データベース・オンラインジャーナルにかんして、感じたことをのべてみましょう。

まず、図書館がスゴい!。社会科学系大学にとっては、図書館こそが、教育・研究の中心であるとかんがえているようで、図書館の運営には、気合いとお金をかけているようです。数百人分ある閲覧席のほぼ半数(300ほど)に、端末(PC)がそなわっています。その他の机の多くにも、情報コンセントがついていて、自分のラップトップパソコンをつなぐことができます。学生は、自分の図書館IDで、端末にログオンすることができ、メール・インターネット・学内ネットを、自由に利用します。大部分の学生は、朝登校してから夜帰宅するまで、授業のある時間帯以外を、ほとんど、この図書館の端末のまえで過ごすようです。ITヘルプの要員も常駐していて、学生のITに関するどんな些末な疑問にでもその場で解決をあたえます。日本の大学にありがちな「ITに詳しいひとならすぐわかることなのに、誰にきいていいかわからなくて、ちょっとしたつまずきで二三日、勉強(仕事)がとまってしまう」ということがありません。いまや「図書館」と「情報処理センター」を「わけて考える」こと自体が時代おくれなのでしょう。

Social Sciences Citation Index の威力を痛感】

そんなわけで、図書館がITと「もはや不可分」ということもあって、「IT・○○の使い方」「オンラインデータベース・××の使い方」とかいった無料講習会が図書館のスタッフによって頻繁におこなわれています。私もいくつかにでてみました。その中でやはり一番参考になったのが、ソーシャル・サイエンス・サイテーション・インデックス(以下INDEX)についてです。(自然科学のサイエンス・サイテーション・インデックスは、ほとんどの理系の先生方がご存じでしょう。また、「人文系」の同等INDEXもあります)。

いままでですと、外国雑誌の論文コピーを取り寄せて、その言及文献をまたとりよせて、、、と、一ステップごとに「時間」がかかりましたが、このINDEXをつかうと、キーワードないしパーソンをうちこむと、雑誌論文の要約がすぐ表示され、その論文の「引用文献」「被引用文献」がすべて一覧でき、クリックするとその表示されている「引用文献ないし被引用文献」の要約にジャンプし、そこにも、その文献の「引用文献」「被引用文献」一覧でき、、、、。と、まさに、「学術論文の引用・被引用のネットワーク」の中を「タイムラグなしでネットサーフィン」できます。とくに、「被引用文献」を挙示するところが決定的です。いままでのいもづる式文献探索では、「今ある文献より新しい文献」を、たどることができませんでした。

日本のほとんどの大学でも、NII(国立情報学研究所)のデータベースで、このINDEXをつかえるようですが、コマンド方式・時間料金制・登録制・学部生の利用は困難、だったとおもいます。こちらでは、フツーの学部生が、卒論・タームペーパーの資料さがしに、自分の図書館IDだけで、気楽にこのINDEXにアクセスして、文献をさがしまくってます。ウーン、鹿大の学生の情報・文献収集の実状とくらべると、「タメ息」がでます。

 【オンラインジャーナル、紙の雑誌をコピーする時代ではない?】

 このようなオンライン文献インデックスと深くリンクしているのが、オンラインジャーナルです。主要学術雑誌のかなりに部分がすでにオンライン化されています。ここまではみなさんもご存じでしょう。すごいのは、図書館のカタログ(目録)で、ある雑誌がヒットすると、そのカタログの画面にオンラインジャーナルへのアクセスがブリンク(リンク)していることです。つまり、図書館の目録をスクリーン上で検索する作業の延長で「クリック、くりくりっ」とするだけで、論文の「実物」が、PDFファイルとして入手できます。図書館の全階にプリンターがあるので、ボタン一つで、プリントアウトもできます。今後は、学術雑誌の「実物(冊子)」は、図書館の棚にいわば「標本」のように保存されるだけで、ほとんどのひとは、オンラインからの論文を入手する、というようになっていくのでしょう。

【大学間デジタルデバイド?(キビシー状況)】

もはや、このようなオンラインINDEX・ジャーナル(あと、ここでは触れませんでしたが、データベース・データアーカイブへのアクセス)なしで、教育・研究するのは、「みずからを、情報鎖国の状態におく」ようなものだとおもいます。が、ご存じのように、これらのオンライン・ソースは、「安く」ないようです。しかし、いまや、われわれ文系の大学人をもふくめて、これらのオンライン・ソースは、教育・研究にとって、死活問題になりつつあるとおもいます。ぜひ、本学でも、全学的コンセンサスのもとに、大学間デジタルデバイドの「負け組」にならないように、戦略方針をとっていただきたいとおもいます。(すでにこの方向で、ご尽力くださっている本学スタッフのかたがたに、敬意を表します)。

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